FXトレードの場合24時間のうち、3分の2近くは海外が主体の取引時間となります。
夏時間であれば日本時間の夕方4時ぐらいから翌日の朝6時、7時までは完全に海外時間ということになり、実に様々なニュースや指標の発表で相場が揺れ動くことになります。
今回は突発的なニュースが起きた場合、相場がどのように動くのかにフォーカスしてみたいと思います。
海外のニュースに関してどのように反応するのがセオリーなのか?という視点でも解説していきます。
もくじ
■突発的なニュースで相場は動く
FXのチャートを見ていますと、突然なんの前触れもなく大きく動き出すことがあります。
もちろん大玉が入ってインターバンクから売買がでることで大きく動くこともありますが、その多くはなんらかのニュース報道のヘッドラインによって動いていることが多いのです。
とくに近年では文字情報を読み込むアルゴリズムが登場していることから、ロイターやブルームバーグの速報に大きく相場が動くケースが増えています。
このアルゴリズムはキーワードで反応するようにできていることから、比較的画一的な相場の反応が見込まれるようになっており、その後人が内容を精査して反応することから時間が経つことによってその動きが変化することもよく起きるようになっています。
具体的にそれぞれの事象によって、どのように為替相場が動くのかを見ていくと次のようになります。
・天変地異
天変地異は突発的なニュースの中でも、もっとも事前想定のできないもののひとつです。
このケースで典型的な動きになったのが、7年前の東日本大震災です。
通常一般市民の感覚としては災害が起きた当事国の通貨が、その直後から買われるというのは違和感のあるものですが、この東日本大震災では、被災国の国の通貨である円が震災の翌週の朝いちばんから猛烈に買われるというかなり特異な動きを見せることとなりました。
2011年3月14日早朝 東日本大震災明けのドル円相場 5分足
これは海外に金融資産を多くもつ日本ならではの動きともいえるもので、海外から円転させて復興のための資金を日本に戻すのではないかという海外の投機筋の思惑に基づく円買いとなったわけですが、実は実際には保険会社の資金も含めてすぐにこうした動きにはならず、相場が勝手に憶測して動いた典型的な例となりました。
先進国で資産を海外に多くもつような米国や日本などの通貨の場合には、こうしたことは起こりやすくなる傾向があります。
一方発展途上国やリスク通貨の場合には、その名の通り逆に売り込まれてお仕舞いになるケースもあるため注意が必要です。
米国でも南部を中心にしてハリケーンの影響などで大変な被害がでることがありましたが、さすがに大きな国であることから被害がでた直後には相場にはほとんど影響せず、その後の経済指標や雇用指標に影響が出たときにドルが弱含むことが多くなりました。
これは日本の地震などとは、かなり市場の反応のことなるもので影響の出るタイミングが異なる点はよく理解しておく必要がありそうです。
・軍事衝突
軍事的な衝突は典型的に人為的に引き起こされる事象となりますが、衝突自身は短期間であってもその後長くリスクとして相場に影響を与えるケースがあるため注意が必要なものとなります。
過去には中東情勢や主要産油国をめぐる政情不安、内戦といったものが為替をはじめ金融市場にはきわめて大きな影響を与えたケースがありましたが、足元では米国が主要な産油国となってしまったことから、石油が世界経済に齎す影響はかなり軽微になり、原油価格自体も投機的に動かなくなるなど、世界情勢の変化によってその評価や市場の反応も変化してきていることがわかります。
日本に関わる直近の軍事衝突のリスクといえば、忘れてはならないのが北朝鮮情勢ということになります。
この問題もミサイルがどこに着弾するかで為替の反応は大きく変化するものとみられていますが、実際にその状況が起きていないことから今のところは何か動きがあったという報道でまずドル円は円高に振れるのが定石となりつつあります。
これはアルゴリズムによるステレオタイプな反応といえますが、毎回北朝鮮によるICBM発射のニュースが飛び出すたびにドル円は円高にシフトしたものの、徐々に相場が慣れてきたことから3回目以降は下がったところが絶好に買い場になるという状況になっています。
したがって最初は売りでついていっても同じことが繰り返された場合には、買い向かうことがチャンスにつながることがベストな方法ということになります。
ただし、北のミサイルが実際に日本国内に着弾し、しかも東京のような主要都市が壊滅的な状況になれば話は別で証券取引所すら機能しなくなってはじめて円売りが加速することになるのであろうと思われます。
実際に甚大な被害が出た場合には、当事国の通貨というのは買われずに売られるリスクもあることはあらかじめ承知しておかなくてはなりません。
FXで個人が本格的に取引できるようになってから、大規模な戦争が起きたことはまだあまりありませんが、2003年にイラク戦争時には米国が開戦を宣言したとたんにドル買いとなり、有事のドル買い面目躍如となったことがあります。
つまり米国に被害が及ばない形で、戦争が離れた地域で開始された場合には、ドル買いになる可能性が高いことも覚えておいて損はなさそうです。
・テロ
戦争以上にだれも想定していないところで、いきなり起きるのがテロのです。
テロ関係でもっとも大きなインパクトを市場に与えたのは、なんといっても2001年の9月11日におけるWTCビルの旅客機の衝突による爆破テロです。
こちらもすでに17年以上の歳月が経過しており、米国の金融市場でもそのことを直接的に経験している人間がかなり減少している状況にありますが、ウォール街に隣接した金融センター自体が崩壊するというきわめて莫大な損害がでましたので相場が稼働しなくなり、再開後に大きな損失がでたのは言うまでもありません。
先進主要国の金融市場自体が稼働停止になるという点では過去に類をみないテロ事例となったことは言うまでもありません。
この2001年段階は、まだネットを利用したFXというものがほとんど流行っていませんでしたから、FX取引で損失を出した個人投資家はほとんど存在しません。
実際の相場は、同年の9月10日121.04円だったドル円が、その後9月20日には115.83円をつけほぼ4%強のドル安円高を示現しています。
しかしこのテロは金融セクターへの影響は大きく、人命も失われたものの経済への影響は軽微と判断されて、その後猛烈に買戻しが入ることとなります。
これも結果論で、底値で買って待っていれば確実に上がるかどうかはそのテロの規模と状況次第ということになりそうです。
あまり考えたくなりですが、日本において原発がテロの対象となり利用できない地域が出てしまうような悲惨な状況の場合、簡単に売られた円がもとに戻る可能性は低いともいえます。
テロの場合には規模と犠牲者、さらにその後に国に与える状況次第で当時国通貨が受けるダメージに変化が現れることになりますが、修復可能な内容の場合には比較的もとに戻りやすいという特徴があるようです。
やはりここでもリスクオフとなると円やスイスフラン、またその地域から遠い国の通貨に資金が逃げることから思わぬ通貨が高くなる傾向があります。
米国で起きた場合は日欧、欧州や英国の場合には日米に豪州といった通貨が買われることが多いようです。
それ以外の途上国や東欧、中東、ロシアなどの場合は初動は円高になりやすいことも認識しておくべきでしょう。
■主要国以外の金融政策変更
突発的な内容で為替相場に影響を与えるものとして、もうひとつ気にしておくべきなのが主要国以外の国の金融政策変更です。
どこが主要国なのかという問題はありますが、通常年間にあらかじめプログラムされた政策決定会合とは別に突然中央銀行が政策変更をアナウンスするケースは相場の大暴落につながりやすく、かなり注意が必要になります。
・スイスフランショック
直近の事例としてすぐに思い浮かぶのが2015年1月15日に突如として発表されたスイス中銀の声明です。
2015年1月15日ユーロスイスフラン推移
スイス中銀は長年に渡って自国通貨を守るために、ユーロについて1.2を下回るようなスイスフラン高が起これば常時介入を実施し、それ以下には絶対下落させないことを中銀自身が公言し実際に介入を行ってきましたが、資金的にもはやそれを維持できないと突然ギブアップの声明を行いました。
このニュースを受けてスイスフランは対ユーロで暴騰することとなり、ユーロは下落、それに影響を受ける形であらゆる通貨ペアに大きな影響がでることとなりドル円も円高方向にいきなり値を下げることとなったのです。
さすがに寝耳に水の状況でこの声明のおかげで欧州圏ではFX業者が破綻に追い込まれることになりましたし、そもそも個人投資家が大変な損害を受けることになっています。
スイスフランショックでは、
1.2を絶対に割らないと信じて対ユーロで1.2ぎりぎりのところに指値をおいて戻りで利益をとろうとする個人投資家と、
もし1.2が割れたときに下方向に走った場合を想定して1.197から下のレベルに逆指値をおいて待ち構えた個人投資家
の2つに分かれることとなりました。
結果はご存知のとおり逆指値をおいていた向きが完全勝利となったのは言うまでもありませんが、上の図のようにいきなり相場が下落したため、インターバンクも値をだせなくなって、なんと一定レベルを値が飛ぶというまさかの自体が発生することとなりました。
多くのFX業者では値が飛んだあとの初値はほぼ1.01レベルとなったことから逆指値をおいておいた投資家はなんらかの利益に預かることができましたが、問題は指値にストップロスをおいていた層で、1.197より上にタイトなストップロスをおいた向きは助かりましたが、それより下に置いた向きは完全に強制ロスカットのラインも飛び越えて莫大な損失を被ることになってしまったのです。
もちろんゼロカットシステムを導入した海外業者なら証拠金以上の損失は免れましたが、国内業者では裁判沙汰になるほと損失をかかえた個人投資家が多く出現してしまうことになりました。
これも結果論になりますが、やはり中央銀行が人工的に行うような介入というのはいつお仕舞いになるかわかりませんから、それを信用するよりは、下抜けたときに利益がとれるように設定するのが得策だということがわかります。
とくに介入による買い支えや価格の一定化という話ほど信用ならないものはないということは覚えておく必要があります。
・中国起因のフラッシュクラッシュ
また同じ2015年の8月25日には中国人民銀行が人民元切り下げを行ったことによる市場の疑心暗鬼から主要国の株と為替がNYタイムの始まる前に暴落することとなりました。
こちらのケースで興味深いのは切り下げの報道が数日前からでまわっていたのにも関わらず数日を置いてNYタイムで株式市場の始まる寸前に大きく暴落をする結果となったのです。
2015年8月24日フラッシュクラッシュ ドル円5分足
実際にこの暴落はリアルタイムでチャートの前で見ることができましたが、人間業の下落とはおもえないほどの勢いで、下落がわかっても目視で損切りなどできる状況ではまったくなかったことが今更思い出されます。
一説にはアルゴリズムによるフラッシュクラッシュであるという解説もされていますが、たしかに機械的にでなければこれだけ瞬間的に下落することはできないほどの暴落で、しかもほどなくして値がかなり戻るという不可解な動きになったことも事実で、個人投資家はこの一件でかなり損失を被ったことは言うまでもありません。
残念ながらこの手のケースでは、たとえストップロスを入れていても、置き方によってはそれを飛び越えて損失がでることもあるため正直なところ対応策がないのが実情です。
こうした暴落の引き起こされる局面では、必ずといっていいほど円高が示現することも覚えておくべきでしょう。
ただ、海外FX業者でゼロカットシステムを導入しているところならば、こうしたケースでも投入資金以上の損失はでませんからかなり安心であるということはできそうです。
また、若干ベンチャー的なエントリーにはなりますが、こうした理由のはっきりわからない突然の暴落や逆に暴騰が起きた場合は底値や最高値の部分で逆張りをしますと10銭から50銭ぐらいは相場が一時的に戻してスキャルピングとして利益が取れるケースが非常に多くなります。
もちろんほとんど戻らないといったケースもありますから100パーセントではありませんが、初動で暴落したり暴騰した場合は一回は逆張りエントリーで多少なりともとってみるという方法はありえます。
■要人の突発的発言による相場変動
要人の突発的な発言がニュースで伝わることも、相場を揺り動かすリスクになっています。
しかし最近ではそれ以上に大きなリスクを伴うようになっているのが、要人事態がソーシャルメディアでダイレクトに発言することで、その典型的な事例となりつつあるのがドナルドトランプ米国大統領の存在です。
この人物は作為的にツイッターを利用していることから、足元では政権内の要人の更迭や人事などもツイートで発表しますし中国への関税措置など政策面もいきなりツイート発信することから、これまでのニュース報道経由ではない新たな市場インパクトを与えるアプローチになってきていることがわかります。
正確に数を掌握できているわけではありませんが、トランプによるクリティカルなつぶやきはかなりの確率でドル安をもたらしており、ドル円では確実に円高を示現するケースが頻発しています。
さすがにこれだけは時間も特定できないゲリラ的な状況ですが、米国が昼間の時間帯は総じて注意が必要な状況になってきていることは確かです。
ということでトランプのツイートの場合とにかく円高に振れることをまず注意することが肝要といえます。
2018年3月13日トランプ・ティラーソン解任時のドル円の動き
逆に考えればドル円をロングのポジションで保有する場合には必ずストップロスをおいて大きな下げに巻き込まれない工夫をする必要がありそうです。
相場の上昇局面でロングを維持している場合にはトレーリングストップを多用することで利益を逃さないという方法も考えられます。
・瞬間に動くニュースと後から動き始めるニュースネタが存在
こうした突発的に発信されるニュースネタの場合、リアルタイムですぐに市場が反応するケースもありますし、言語の問題で翻訳版がでまわった途端に動き出すケースもありなかなか判断がつかないのが実際の状況です。
またほかのニュースとの組み合わせでその影響力が突然大きくなるケースもありえます。
さらに東京タイムなどで話題になったネタは欧州時間、NYタイムで再燃して株価に影響がでることで為替に再度跳ね返ってくることも多く、このあたりになるととにかく注意してみている以外には適切な対応手段というものは意外に限られている状況です。
これは首相レベルでも大失敗を起こすことになりかねません。
2016年4月5日に米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューに答える形で安倍総理が「外国為替市場での恣意(しい)的な介入は控えるべきだ」と発言した記事が掲載されました。
これは同年2月のG20サミットでも、声明として出ていることですからとりたてて驚くべき発言ではなかったわけですが、奇しくも相場が円高に大きく振れ始めたちょうどその絶好のタイミングに、各国が輸出競争力をつけるため通貨を切り下げる「通貨安競争」について、「いかなる環境にあろうと避けないといけない」と語ったことが掲載されてしまったことからなんと円高容認と市場に捉えられてしまったのです。
当然その晩のニューヨーク外国為替市場の円相場は、約1年5カ月ぶりに1ドル=109円台の円高水準に上昇するという大きな失敗を招いています。
これはメディア取材を受ける時にすでに発生していたリスクといえますが、海外メディアなどの取材ではすぐに掲載されるわけではない点をまったく考慮せずに良かれと思ってたいしたことではない発言をしたため結果首相が円安を引き起こした典型例となってしまったのです。
要人発言は故意にやっているものは発言者の意図どおりに相場が動くことが多くなりますが、迂闊に発言した場合にはまったく逆のケースもありますので、ここをあらかじめ読み取るのはかなり至難の業になります。
■まとめとして
このようにこれまで市場に示現した突発的なニュースと、その後の相場の動きはアルゴリズムの普及で瞬間的に動くことが多いことから、ニュース報道を見てそれに乗って売買することが非常に難しくなっていることがわかります。
ドル円で言えばもちろん相場が吹き上がることもありますが、かなりの確率で円高方向に下落することが多いため、ドル円のロングを持っている場合には必ずストップロスをおいておくことが重要になりますし、上昇局面ならばその動きにあわせて損切ラインも上昇するトレーリングストップをうまく使うことも重要になります。
何がおきたかわからないのに相場についていくのは非常に不安が残るものですが、事件や事故の一報の場合どこかで一旦は止まることが多くなり、多少相場が戻ることが想定されますので、一度底値や高値で反対売買をするとごく限られた利益ではありますがとることもできることは覚えておいていいでしょう。
それ以外のケースは、やはり相場の大変動の要因をしっかり認識してから売買すべきで、出遅れたと思った時には慌ててついていかずに状況を把握してからエントリーするのが基本となります。
全体的に、突発的なニュースで利益を得るのはかなり難しいと考えておくのが間違いないものといえそうです。